2021年に初プレイして滅茶苦茶楽しかった多人数アブストラクトゲーム「Spinimax(スピニマックス)」「Billabong(ビラボング)」「SuperAdapt3(スーパーアダプト3)」の紹介
ボードゲーマーの本業である遊びに傾注し過ぎたのとサイトの準備に手間取ってしまい、アドベントカレンダー に遅刻してしまいました。着手し出したのが 2021-12-10 ということで勘弁して下さい。
昨年から土嚢の会等を通してアブストラクトゲーム熱が再燃し、今年は二人用ゲームのいわゆるサシゲーを例年の 20 倍は遊んでいた気がします。 しかしこの記事では、敬遠されがちな多人数アブストラクトの方を中心に取り上げます。
二人用アブストラクト vs 多人数アブストラクト
「アブストラクトゲーム」の解釈は色々あるみたいなのですが、ここでは「伏せられた情報が無くて、セットアップ以外の運要素が0」なゲームを指します。 個人的にこのジャンルが好きでして、特に二人用のゲームと言えばまずアブストラクトが思い浮かびます。終始お互いを殴り合い続ける、場合によっては斬り合うような感覚は格別です。
自分にとってのアブストラクトゲームで嬉しいところを並べて見ます。勿論例外は有ります。
- ルールがシンプルで理解しやすい
- 短期記憶力を必要としないので、途中の盤面から再開する事が簡単
- 上記2つのおかげで、観戦者も対局者と同じように考える事を楽しめる
- ルールを読んだ時点では想像出来なかった、ミニマムなルールから生まれる深い指し手の幅に気づいた時のアハ体験
二人用ゲームで嬉しいところは以下です。
- キングメイカーにならず済むので、見込みが無くなったら投了できる
- 横から殴られるということが無いので、遠慮会釈なく正面から殴り合える
- 読める範囲が広く、相手の思考中に自分の次の手を考える価値が高いからダウンタイムが少ない
これはそのまま多人数ゲームだと逆になりやすいです。全ての情報が詳らかになっているからかマルチゲーム感が醸されやすく、個人的に遊んでみて苦しい思いをする確率が高かったです。二人用のアブストラクトゲームは好きだけれど、多人数アブストラクトは徹底して避けるという方も少なくないのではないでしょうか。
自分も多人数アブストラクトで好きな物は Mexica(メキシカ) 他数える程しか無かったのですが、今年は嬉しいことにお気に入りが幾つも増えました。
Spinimax(スピニマックス)
土嚢でお馴染みだった nestorgames ですが、マウスパッドではないものの一つに Shibumi(渋) という3Dタイプのゲームを出しています。 nerstorgames というと全部のゲームをネスターさんが作っていると思われる方も多いようですが、ネスターさんはゲームデザイナーでありつつパブリッシャーでもある為、他のデザイナーのゲームも nestorgames ブランドで出版しています。 中でも共通コンポーネントに色んなゲームのルール集を付けた物1が Yavalath & Co.(ヤバラスルール集) と、この渋です。渋の二人用ゲームは以前に友人と9割方プレイしていたのですが、後ろのページの方にはアブストラクト以外だったり多人数対応のゲームもありました。先日この中の三人専用ゲームを遊ばせて貰う機会があってとてもおもしろかったのでご紹介します。
Akron(アクロン) の作者であり、Yavalath(ヤバラス) の作者の作者でも有名な Cameron Browne(キャメロン ブラウン) さんの作品。 今年遊んだ中で一番尖ったゲームかもしれません。
推しポイント
- ゲームの半分が自動処理
- 一人辺り5手番だけなので、3分とかからず終わる
- マジョリティの勝者判定が斬新
交互に自色のボールを置いていき、頂上に置けたプレイヤーの勝利です。
2x2の正方形が出来る事によりボールが中央の窪みに乗るようになるというのは渋の基本骨子です。 そしてボールのピラミッドが完成した時に、一番上のボールを担当していたプレイヤーの勝利というのは Pylos(ピロス) なんかと同じですね。 直下の4ボールの数の多寡で勝敗判定をして上段に自動処理が発生するのは、Upper Hand(アッパーハンド)2と同じです。
しかし、このゲームはこれら全てを、より切れ味鋭くするようなルールを採用しました、それが三人専用とマイノリティ勝ちです。
上段へ上がるプレイヤーは単独最少です。しかし、単独最少が居なかった場合には最多が勝ちます。無配置のプレイヤーは不参加ではなく最少とカウントされます。 三人プレイ時に単独最少が居ないと必ず単独最多が生じるので、同点での引き分けは発生しません。 つまり二段目以降は必ず自動処理で積み上がります。
写真は自分の四戦目からです。赤が一段目の勝敗判定で全て負けた結果、二段目では全て単独最少で勝ちました。三段目は最少被りのため最多で勝利し、四段目の頂上に達しています。赤は自分でしたが、この展開になるとは思いもしませんでした。
最初は宇宙人の発想かと思っていたのですが、よく考えるとこれは Big Shot(ビッグショット) や Das Pferd von Troja(トロイの木馬) 等に於けるマジョリティバッティングは無効というルールの変形なのかなと思うようになりました。先ほどの最多云々はルールから落として、単に被っていない中で最少が勝つと書き換えても結果は同じ筈です。バッティングをミニマムな形へ落とし込む際に生まれたのが三人専用且つマイノリティ優先だったのかもしれませんが、渋のコンポーネントを抜群に生かした上段へ駆け上がる自動処理も相まって唯一無二の存在になっています。
渋は nestorgames の中でも比較的入手しやすい部類のゲームだったのですが、2021 年の土嚢系撤退に伴い通常の版が公式での販売リストから無くなり、今はデラックス版の取り扱いも無いのが残念です。
Billabong(ビラボング)
推しポイント
- 妙手や好手が高頻度で登場し、視覚的に派手
- 「養分」という単語が自然と飛び交う
- ルール把握時点での想像を遥かに超えてくる展開の面白さ
ここで紹介している3ゲームの中で一番古く、1992 年に初版が出ています。作者はつい昨年亡くなられた Eric Solomon(エリック ソロモン) さんで、バッグドローながらアブストラクト色の強い二人用ゲームの Hyle 7(ヒュレ7)や、Black Box(ブラックボックス)、Casablanca(カサブランカ) 等の代表作があります。 nestorgames さんが Corporation(コーポレーション) という多人数対応のアブストラクトをリテーマ?出版していますし、カサブランカは Die Jagd nach dem Gral(聖杯争奪戦) 等でのリメイクを重ねています。自分はつい先日まで Corporation 以外の作品は名前すら知らなかったのですが、ホヌゲームズさんが最近ビラボングを取り扱ってくれたことで触れる機会に恵まれました。以下がざっくりしたルールです。
- 1コマに対して、将棋の王将の動きをさせるか遠距離連続ジャンプをさせてゴールを目指す
- 後ろや横へも移動やジャンプをして良い
- 自コマ 4~5 個を最初に全部ゴールさせたプレイヤーの勝利
- 連続ジャンプ開始地点に置くレフリーが単なるマーカーに留まらず、(できるものなら)ジャンプの踏み台にして良い
初見では正直余り期待していませんでした。まずボードが質素過ぎて展開の起伏を想起させません。ルールも Onager(オナガー) で遠距離連続ジャンプに触れてしまった後なのでそこまで目新しく感じられず、この広大なボードを5コマゴールさせるとかどれだけの時間がかかるんだとげんなりです。カンガルーコマの造形は可愛くて、「レフリーも飛べます!」というところはインスト時の盛り上がりポイントかなーというぐらい。
ところが始まってみると劇的な展開の連続です。1コマが少し動くだけで他のコマに急に妙手好手が生まれます。それでいて初心者でもその道筋を見つけるのはさほど難しくありません。それはそのまま他のプレイヤーの動き一つがキングメイキングや自分の予定していた経路を潰される事にも繋がるのですが、良いことの頻度が高いので許容できてしまいます。巻き戻し用のレフリーが用意されているぐらいなので、極端な長考にならなければコマを動かしながら考えても罪悪感が湧きません。後方集団でジャンプの手がかりすらなくなると地獄なので、自然と全コマを平均的に進ませるような感じになります。複数コマを一周だけさせるというのは、1コマを何周もさせるレースゲームよりむしろダレ無いと感じました。
連続ジャンプで全コマを目的地へ到達させるというのはChinese Checkers(チャイニーズチェッカー/ダイヤモンドゲーム)に似ているという感想を聞いてナルホドと思いました。そこへ加わった遠距離全方向ジャンプとカンガルーテーマがマッチして、多人数アブストラクトとしてもレースゲームとしても、トップクラスに好きなゲームになりました。 初版だと四人までのゲームだったのですが、最近のリメイクでは五人まで対応になっています。自分は三人と四人でしかプレイしていないのですが、四人ぐらいが賑やかさとダウンタイムの兼ね合いで丁度良いのでは無いかなと。ただ二人プレイは読める範囲が広がる分別の面白さがありそうなので、どこかで試してみたいです。
SuperAdapt3(スーパーアダプト3)
推しポイント
- 少ないルール量と短いプレイ時間
- 単なる能力強化が出来ず、増強と弱体化が同時に発生するジレンマ
- マルチゲーム化を避けるのではなく、制約を増やす事で独特のインタラクションを持った三すくみマルチにするという解
nestorgames の代表作は何でしょう。人によって違う?いや、公式に代表作があるのです。それが Adaptoid(アダプトイド) 。なんか見た目がアブストラクトっぽくなくて全然興味を持ててなかったのですが、 nestorgames のあのロゴはこいつのピクトグラムなのです。 蟹のような何者かが戦闘力か移動力を増しつつ機を見て相手に襲い掛かるというかなり異色なテーマのアブストラクトです。作者は nestorgames のドン、 Néstor Romeral Andrés(ネスター ロメラル アンドレス) さん。
二人プレイの雰囲気は是非アブな世界の動画で確認してみてください。 ざっくり以下のルールです。
- 手番の頭に1コマだけ、そのコマの脚の本数分動かしてもよい。敵のコマのマスに侵入すると、爪の本数が少ない方が取り除かれる。同数だった場合は両方取り除かれる
- 次に、必ず能力か仲間を1つ増やす
- 手番の終わりに対戦相手の酸素不足蟹を全て取り除く
- 5回以上敵蟹を取り除いたプレイヤーの勝利。同時に双方が条件を満たした場合は手番プレイヤーの勝利
コンポーネントを通じた表現は独特ですが、脚での移動力増加は Focus(フォーカス) 、爪での戦闘力増加は TZAAR(ツァール) や Caesar(カエサル) を彷彿とさせ、スタッキング系のゲームがベースになっているよう感じます。 Adaptoid のルールで特徴的なのは、なんといっても呼吸判定でしょう。自分の脚や爪の本数以上周囲のマスが空いてないと呼吸出来ません。移動力に関しては DVONN(デュボン) 等使い切りが必須のゲームでも一概にお得と言い切れなかったのですが、戦闘力を上げる程死にやすくなるというのは斬新です。また、捕獲系ゲームでは取ってきた相手のコマを取り返せるよう一か所へ戦力集中する展開が良く生じますが、コマ同士がくっつくと仲間であっても呼吸の妨げになるというのがこれをやりづらくしています。 対戦相手としても常にこの筋を狙って相手の最強コマへの一撃死を狙えます。自分のコマを移動で隣接させ、隣のマスへ仲間を増して呼吸点を一気に二つ減らすのが基本手筋でしょう。最強の存在を倒すのは得てして最弱の存在というのがなんともイカしてます。
これを三人でもプレイできるようにする拡張が Adapt3(アダプト3) です。単にコマを増やしただけではなく、追加のルールがキレてます。
- 直接攻撃を加えられるのは上家に対してのみ
- 呼吸判定は全対戦相手を対象にする
- 脱落者の下家がゲームに勝利する
自分に襲いかかる天敵にも呼吸を塞ぐ事での反撃は可能です。しかしこれにより一番得をするのはさらに別のプレイヤーなので、緊急事態以外は避けるでしょう。場合によっては一手番前に自分を殴ってきたばかりの下家を助ける為に、自分の獲物である上家から庇うような行動すら求められます。
それぞれの利害関係が絡み合う三人マルチというと Maria(マリア) が思い浮かびます。大変面白い作品なのですが、ウォーゲームが下敷きになっているのでルールの細則が多く、プレイ時間も長い為中々気軽には遊べません。 その点この Adaptoid + Adapt3 はアブストラクトの中でも少ないルール量と短時間な nestorgames だけあり、基本も拡張もそれぞれ1ページ程度のルール分量で、プレイ時間も30分以内に収まることが多いでしょう。
ゲーム名だけおさらいすると、 Adaptoid の デラックス版が SuperAdaptoid(スーパーアダプトイド) で、Apdaptoid を三人専用にする拡張が Adapt3。Adapt3 のデラックス版が SuperAdapt3 です。Super 化してもルールに特段変更はないので BGG ではバージョン違いとして扱われているのですが、プレイアビリティと雰囲気が大きく変わるのと、公式サイトが 2021-12-10 現在無印の販売を終了している事からここでは敢えて Super 側を推しています。
つい先日、この SuperAdaptoid のファブリックボードバージョンが発表されました。とてもいい感じのファブリック素材のようだし、持ち運びが軽くて済みそうです。丁度共同購入3する直前だったので迷ったのですが、素材が好きなのとモジュラーボード化出来るという利点から自分はアクリルボードの方を選びました。またヒカリゲームズ堺さんで、恐らく最後の土嚢版 Adaptoid が取り扱われているので携帯性を重視する方はこちらを選ぶのも手でしょう。しかし小さい爪脚の脱着はフラストレーションが溜まるのと、 Adapt3 は既に売り切れてしまったのが残念な点です。
この SuperAdaptoid/SuperAdapt3 は別に最近のゲームというわけでもないのですが、なんと別のアドベントカレンダー側で同日に紹介されたのには驚きました。他のアドベントカレンダーに誘導するのはちょっと抵抗がありますが、日本の nestorgames 愛好家の9割がお世話になっているであろう和訳神 ats さんの記事で、ここに紹介されている Omega(オメガ) も大好きな多人数アブストラクトです。
まとめ
多人数アブストラクトでネックになりがちなキングメイカー問題が、ここで紹介した3ゲームだとそれぞれ別の理由から軽減されています。
- スピニマックスは斬新なルールと超短時間である事によりそれ以外の事が頭から吹っ飛ぶ
- ビラボングは損害以上の利益を提供
- スーパーアダプト3 はシステムで攻めた
自分と同じような理由から多人数アブストラクトを敬遠されている方も多いと思うのですが、是非一度これらのゲームでも遊んでみて下さい。
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新進気鋭のアブストラクト作家 Kanare_Abstract さんが、より広く使えるようにした汎用ヘキサゴナルと汎用スクエアを出版されています ↩︎
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日本ではアッパーハンドと同じルールのゲームを Mosaic(モザイク) という名前で出版されている方が居ます ↩︎
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同じものを 4 個買うと 25% 引き、 16 個買うと 40% 引きになります。 ↩︎